ART生殖補助技術とは
ARTはAssisted Reproductive Technologyの略で、不妊治療で重要な治療法となっています。ARTが進歩したことで、今まで難治性の不妊症と言われた卵管性の不妊や男性不妊の患者さんも治療を受けることができるようになってきました。
不妊の原因とART
不妊の原因は様々ありますが、中でも卵管に不妊の原因がある場合(卵管因子)と男性不妊がある場合では治療が難しいとされてきました。しかし、1992年に顕微授精が登場してから急速に進歩して、一般でもARTによる不妊治療が行われるようになっています。
■卵管因子
卵管が詰まっていたり、癒着を起こしていると、卵子がうまく運ばれずに受精できない状態となります。また、受精できても抗精子抗体などで受精卵の移動が妨げられることもあります。
この他にも、卵子をうまくキャッチできないピックアップ障害などにもARTは有効とされています。卵管の病気については卵管の病気で、ピックアップ障害についてはピックアップ障害にまとめています。読んでみてください。
■男性不妊
重症精子減少症・精子無力症・精子奇形症など重症の男性不妊では、妊娠するには難しいとされています。しかし、顕微授精(ICSI)を行うことによって妊娠する可能性も広がっています。
この他の不妊の原因については不妊の原因で説明しています。参考にしてください。
男性不妊は、知らない人も多く一般的には認知されていない状況です。不妊に悩む人の約半数に男性側に問題があると言います。不妊の問題は夫婦で協力することが必要不可欠なので日頃からコミュニケーションを取っておくことが大切です。
ARTの手法
ARTには、体外受精・胚移植(IVF-ET:in vitro fertilization-embryo transfer)と卵細胞質内精子注入法(ICSI:intracytoplasmic sperm injection)があります。体外受精でも妊娠できないときはICSIへのステップアップが検討されます。
■体外受精・胚移植(IVF-ET:in vitro fertilization-embryo transfer)
体外受精は、体内から卵子を取り出して採取した精子と混ぜて受精させ、2~4日培養したあとに子宮内に戻す治療法です。人工授精を行っても中々妊娠しない場合や卵管因子の不妊、抗精子抗体陽性、子宮内膜症、原因不明不妊・機能性不妊、高齢の人が適応となります。
■卵細胞質内精子注入法(ICSI:intracytoplasmic sperm injection)
ICSIは、顕微鏡下で卵子の壁を細いガラス管で刺して精子を直接注入する方法です。直接精子を注入するので受精する確率も高くなります。重症精子減少症、精子無力症、精子奇形症、精子―透明体卵細胞膜貫通障害、抗精子抗体陽性例などの場合に適応となります。
参考:ART についての基礎知識( PDF 1235kB) – 日本産科婦人科学会
ARTのリスク
ART、特にICSIを行った場合は遺伝的影響と生命に関する倫理的な問題があります。また、ARTだけではなく不妊治療全般に言えることですが、副作用についてもリスクがあることが懸念されています。
不妊治療を行った場合、OHSSや早産・流産、子宮外妊娠、多胎の増加や先天性異常の発生などがリスクとなります。
不妊の原因全てではありませんが、母親や父親、または両親に染色体異常がある場合もあります。染色体異常がある場合、胎児も染色体異常があることもあり十分な遺伝学的カウンセリングが求められています。
男性不妊では、染色体異常が原因で不妊症となる可能性が指摘されています。特に、AZFなどの欠失が原因の造精機能障害の症例にICSIを試行すると男児に100%伝搬することも報告されています。つまり、父親と同じく造精機能障害を持った男児となるリスクがあるとされています。

妊娠前から初期にかけて葉酸を摂取することで、先天性の異常である、「神経管閉鎖障害」のリスクを70%も低減できることが分かっています。
日頃から、十分な量の葉酸を摂取することが大切です。
詳しくは、下記ページで説明しています。読んでみてください。
●妊娠前・初期に絶対必要な葉酸

赤ちゃんとママの明るい将来のためにも、今すぐ葉酸を摂取するようにしてくださいね。
葉酸サプリの選び方については、失敗しない!葉酸サプリの選び方で解説しています。こちらも併せて読んでみてみてください。
生命に関する倫理については、日本産婦人科学会・日本生殖医学会からガイドラインが発表されています。
・生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解
・一般社団法人日本生殖医学会|倫理委員会報告「多胎妊娠防止のための移植胚数ガイドライン」
これによると
1.体外受精などの胚移植においては、日本産科婦人科学会の見解どおり、移植胚数を3個以内とすることを厳守する。
2.多胎妊娠のリスクが高い35歳未満の初回治療周期では、移植胚数を原則として1個に制限する。なお、良好胚盤胞を移植する場合は、必ず1胚移植とする。
3.前項に含まれない40歳未満の治療周期では、移植胚数を原則として2個以下とする。なお良好胚盤胞を移植する場合は、必ず2個以下とする。
4.移植胚数の制限に伴い、治療を受けるカップルに対しては、移植しない胚を凍結する選択肢について、各クリニックにおいて必ず提示することを求める。
となっていて、厳正な運用が求められています。
不妊治療については不妊治療の種類で詳しく書いています。
妊娠では妊娠から出産までの疑問や対処法をたくさん紹介しています。読んでみてください。