多嚢胞性卵巣症候群の診断基準
POCSの診断基準は欧米での基準ではなく、日本女性向けの新しい多嚢胞性卵巣症候群の新診断基準が適用されています。(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会,2007)月経異常、多嚢胞性卵巣、血中男性ホルモン高値 または LH基礎値高値かつFSH基礎値正常。この項目に従って診断されます。
■多嚢胞性卵巣症候群の診断基準1993
Ⅰ.臨床症状
① .月経異常(無月経,稀発月経,無排卵周期症など)
2. 男性化(多毛,にきび,低音声,陰核肥大)
3. 肥満
4. 不妊
Ⅱ.内分泌検査所見
① .LHの基礎分泌高値, FSHは正常範囲
2. LHRH負荷試験に対し,LHは過剰反応, FSHはほぼ正常反応
3. エストロン/エストラジオール比の高値
4. 血中テストステロン又は血中アンドロステンジオンの高値
Ⅲ.卵巣所見
① .超音波断層検査で多数の卵胞の嚢胞状変化が認められる
2. 内診又は超音波断層検査で卵巣の腫大が認められる
3. 開腹又は腹腔鏡で卵巣の白膜肥厚や表面隆起が認められる
4. 組織検査で内莢膜細胞層の肥厚・増殖,及び間質細胞の増生が認められる
従来は欧米の診断基準によって診断されていましたが、日本人ではあまりいない多毛や肥満(全体の割合で約14%程度)が主な基準となっていたので1993年に日本人女性向けの基準が設けられました。
しかし14年あまり運用されたところで、血中LH 値測定やアンドロゲンの測定、卵巣所見の曖昧さが問題となり2007年に新しい基準が設けられそちらに移行しています。
診断基準の問題点
■血中LH 値測定の問題点
SPAC-S(検査キット)で血中LH 値測定した場合、変異LH 症例が全体の約8%に存在することが分かり高LHと診断しにくい。
■アンドロゲンの測定
高アンドロゲン血症が多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に関係しているのは分かっているのですが、日本人女性ではあまり見かけることはなく必須項目には入っていませんでした。
視診は抽象的で正常値を示すデータが無い、多毛はむだ毛処理をしている場合も多く見分けることが困難、血中男性ホルモンの測定も検討された基準値がないなどの理由から検査をする意義が問われていました。
■卵巣所見の曖昧さ
経膣エコーが発達したことにより多囊胞性変化(PCO)が比較的容易に分かるようになってきました。しかし診断基準は現場の判断のままとなっていました。
新しい多嚢胞性卵巣症候群の診断基準を導入
異常のようなことを受けて2007年に診断基準の見直しが行われ、超音波検査の所見については欧米のものが採用されています。
■ASRM/ESHRE 2003における超音波断層法によるPCOの判定基準
1. 2~9mm大の卵胞が12個以上
2.卵巣の体積が10cm3より大
・1, 2のうち少なくとも1つを満たす場合PCOと判定する
・卵胞の分布,間質の輝度・面積の増加は定義には含まない
・片側の卵巣のみでPCOと判定してよい
・10mm以上の卵胞がある場合や,黄体被膜を認める場合は次の周期を待って判定する
・ピルを内服してる女性にはこの基準を用いることはできない
・超音波上のPCO所見だけでPCOSと診断することはできない
■新しい診断基準
新しい多嚢胞性卵巣症候群の新診断基準
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会,2007)
Ⅰ.月経異常
Ⅱ.多嚢胞性卵巣
Ⅲ.血中男性ホルモン高値 または LH基礎値高値かつFSH基礎値正常
注1) Ⅰ~Ⅲの全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする.
注2) 月経異常は無月経,稀発月経,無排卵周期症のいずれかとする.
注3)多嚢胞性卵巣は,超音波断層検査で両側卵巣に多数の小卵胞がみられ,少なくとも一方
の卵巣で2~ 9mmの小卵胞が10個以上存在するものとする.
注4)内分泌検査は,排卵誘発薬や女性ホルモン薬を投与していない時期に.1cm以上の卵
胞が存在しないことを確認のうえで行う.また,月経または消退出血から10日目までの時期は高LHの検出率が低い事に留意する.
注5)男性ホルモン高値は,テストステロン,遊離テストステロンまたはアンドロステンジオ
ンのいずれかを用い,各測定系の正常範囲上限を超えるものとする.
注6)LH高値の判定は,スパック― Sによる測定ではLH≧ 7mIU/ml(正常女性の平均値+
1× 標準偏差)かつ LH ≧ FSHとし,肥満例(BMI≧ 25)ではLH ≧ FSHのみでも
可とする.他の測定系による測定値は,スパック― Sとの相違を考慮して判定する.
注7)クッシング症候群,副腎酵素異常,体重減少性無月経の回復期など,本症候群と類似の病態を示すものを除外する.
今回の診断基準では、深く関わりがあるとする糖代謝に関する問題が先送りとなっていて、今後の基準に盛り込まれる可能性があります。
POCSについては多嚢胞性卵巣症候群でまとめています。参考にしてください。
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