多嚢胞性卵巣症候群と妊娠
多嚢胞性卵巣症候群(POCS)と診断される人が妊娠を希望する場合、排卵を積極的に促す排卵誘発からはじまります。排卵を誘発させるクロミフェン・クロミッドなどを服用して排卵の状態を確認しながら治療を行っていきます。
不妊治療はオーダーメイド医療
不妊は原因も様々で個人差があるため、一人一人違ってきます。不妊治療はオーダーメイド医療とも呼ばれ様々な治療法が存在します。施設や医師によっても治療方針が変わることがあります。
医師と今後の不妊治療の方針をよく話し合って納得して治療をはじめるようにしてください。医師に聞きにくいときもありますが、人生の大事な時間と体を預けることになるので、分からないことがあればとことんまで聞くようにしましょう。
それでも納得いかないときは転院することも選択肢の一つです。施設ごとに治療方針が違うため転院して妊娠に至ったケースもあります。不安を抱えながら治療を受けることがないようにして治療しましょう。
また、不妊の原因の半分は男性にもあるため、夫婦でしっかりと検査を受けることが大切です。男性側に原因があるとせっかくの治療が無駄になってしまうため、一緒に精液検査などの男性不妊検査を受けて夫婦で妊娠を目指すことが大事です。
妊娠を目指すPOCSの治療法
ここでは、妊娠を目指すPOCSの治療法を紹介していきます。治療を行う前に担当の医師と治療方針についてしっかりと説明を受け、十分に話し合いを行ってから治療を行ってください。
■多嚢胞性卵巣症候群の不妊治療
最初にクロミフェン・クロミッドで排卵を促します。排卵が起こった場合にはタイミング法の指導、起こらない場合はクロミッドの量を増やすかHMG製剤やFSH製剤の注射となります。
クロミッドは長期間使用するとおりもの(頸管粘液)が減少したり粘度が高くなって精子の進入を防ぐ副作用があります。また、子宮内膜が厚くならずに着床しにくくなる副作用があります。なお、クロミッドの服用によりOHSS(卵巣過剰症候群)になるリスクは低いとされています。約5%に多胎妊娠の可能性があります。
※クロミッドの服用後に妊娠するのは6周期以内と言われています。これ以上の投与は逆にリスクを増やしてしまうことになります。このことを考慮して3周期服用して1周期お休みする方法を取っている施設もあります。
HMG製剤などの注射はリスクがあります。POCSの人がHMG製剤を注射をすると卵巣過剰症候群になってしまうリスクが高いことが知られています。注意深く投与しても卵巣過剰症候群(OHSS)となってしまうリスクがあります。
このリスクを避けるためFSH製剤を注射したり、二・三日に一回注射を行うsporadic HMG療法などが行われています。こちらも多胎妊娠の可能性がありクロミフェンに比べて多い約21%となります。
この時点で排卵が確認できた場合にはタイミング法の指導や人工授精など妊娠へ向けた指導や治療が行われます。
タイミング法は、女性にも男性にも排卵以外に受精に問題がない場合に指導されます。人工授精(AIH)は、経験粘液が少ないときや精子に問題が圧あった場合に選択される療法です。
参考:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) | あみウイメンズクリニック
多嚢胞性卵巣症候群 – リプロダクションセンター
POCSでも基礎体温をしっかりと
POCSの人は無月経・無排卵周期症や月経周期が長い人が多く排卵が起こりにくいので、基礎体温が二相にならずにガタガタになったり、ずっと低温期のままの人が多いです。治療を行う前に基礎体温を測っておくとスムーズに治療を行うことができますので、日頃から基礎体温を付けるようにしましょう。
■クロミフェンや注射でも排卵が起きない場合
クロミフェンや注射を打っても排卵が確認できない場合は腹腔鏡下での手術(腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD:Laparoscopic Ovarian Drilling))や体外受精(IVF)などが治療の選択肢となります。
腹腔鏡下卵巣多孔術のメリットとして
・ホルモンの正常化が期待できる
・クロミフェンが効きやすくなる
・約7割の人に自然排卵が起こる
・1年以内に妊娠する人が約50%いる
・OHSSや多胎妊娠などの副作用の予防効果
・他の不妊原因を同時に診断・治療できる
LODを行うと上記のようなメリットがあります。
デメリットとして
・入院費用が掛かる
・手術のリスクがある
・お腹に手術痕が残る(約5cmの痕が数カ所)
・流産や合併症を予防しない
・効果が約半年から1年半しか持続しない
などがあります。
LODに対する評価は分かれていて、体外受精を推奨している施設もあります。LODや体外受精で妊娠できない場合には顕微授精へステップアップします。
POCSと糖尿病
近年の研究で多嚢胞性卵巣症候群と糖代謝の異常は密接に関係していることが分かってきました。
インスリンが異常分泌されると結果的に卵巣でアンドロゲン(男性ホルモン)が多く作られてしまい卵胞の発育を阻害して排卵が起こりにくくなります。
POCSの人は、非インスリン依存性の糖尿病を患っていることがあり、血中のインスリン検査であるインスリン抵抗性指数 HOMA-R(homeostatic model analysis ratio)を測定して、一般的に検査値が4以上でインスリン抵抗性があると判断されます。
糖尿病というと太っている人がなるイメージがありますが、やせ型の非インスリン依存性の糖尿病もあります。POCSの人は肥満になっているといいますが、日本では全体の14.3%とそれほど多くありません。(日本産婦人科学会調べ)POCSでの非インスリン依存性の糖尿病の約半分はやせ型と言われています。
POCSとメトフォルミン
糖代謝異常を抑えると排卵が起こりやすくなるので糖尿病治療薬のメトフォルミンがPOCSの人に処方されることがあります。
体内のインスリン濃度を正常に近づけることで、結果として卵巣から産生される男性ホルモン(アンドロゲン)が抑えられて排卵が起こるようになります。インスリン抵抗性がある人だけになりますが有効な治療法です。
メトフォルミンと同じようなメカニズムを持ったグリスリンという成分があります。
グリスリンは天然のマイタケから抽出される成分で、天然の成分で副作用も少ないことから今後色々な分野への応用が期待されている成分です。
グリスリンは医療用の成分ではないので、健康補助食品として通販や不妊治療を行っている施設で購入することができます。
POCSと漢方
不妊治療を行っている施設でもPOCSの人に漢方を処方している施設があります。
東洋医学的にPOCSは淤血(おけつ)と痰湿(たんしつ)によって引き起こされると考えられ、それに合わせた処方で使われます。漢方は桂枝茯苓丸や温胆湯が良く処方されるようです。
体の血の巡りをよくして、下腹部を中心に循環をよくして代謝を上げて卵巣や子宮の状態を改善しようとするものです。
漢方は保険適用にならないときもあり、費用が掛かることがデメリットです。よく漢方を利用する人で月15000円前後の費用を使っているようです。クロミッドや他の不妊治療と併用して使われることも多く排卵障害が改善されたと言う声も多く聞かれます。
漢方は個人に合わせて処方されるため、必ず担当の医師か漢方専門の薬局で処方してもらうようにしてください。
詳しくは多嚢胞性卵巣症候群と漢方で解説しています。こちらも読んでみてください。
妊娠を希望しない場合には、基礎体温を人工的に二相を作り出すカウフマン療法や低用量ピル(OC)を使って正しい月経周期になるように薬で治療していきます。
POCSについては多嚢胞性卵巣症候群でまとめています。参考にしてください。
不妊に関係する病気は妊娠しにくい病気で詳しく紹介しています。
妊娠では妊娠から出産までの疑問や対処法をたくさん紹介しています。読んでみてください。